動静脈瘻(arteriovenous fistula)

動脈と静脈が直接、短絡している状態で、その移行部やその末梢の静脈が大きく拡張している場合もあります。(静脈瘤varixといいます)

血管奇形の例

血管奇形

肺の症状

肺動静脈奇形

肺の動静脈瘻があれば、酸素化が悪いために、全身倦怠・呼吸不全・チアノーゼ、さらに喀血などを起こすことがあります。
また、肝臓や中枢神経系(脳・脊髄)でも同様に動静脈瘻が認められることがあります。
動静脈瘻が大きいと心不全を起こす場合もあります。(特に、肝臓に動静脈瘻がある場合)
HHTの患者さんの50%に、肺、脳、肝臓の少なくとも一つに病変があるとされています。

脳の症状

脳症状には、脳出血と脳梗塞があり、前者は脳動静脈瘻arteriovenous fistula (AVF)・脳動静脈奇形(AVM)や動脈瘤が原因で起こり、後者は肺の動静脈瘻からの塞栓症のために起こるのが原因です。
また、脳膿瘍(脳に膿が溜まる病気です)も後者で起こることがあります。
脳の血管奇形は、HHTの患者さんの10-20%に認められ、動脈と静脈が直接つながる動静脈瘻(AVF)の形をとったり、ナイダス nidusと呼ばれる異常血管構造が介在する場合があります。
後者の場合、大きさにより1 cm以下であればマイクロ血管奇形micro-AVMと呼ぶ場合があり、1cm以上の大きさの病変と区別されます。大きさが、1cm以下であれば出血する可能性は高くないこと、またMR検査で検出できいない場合もあります.逆に1cm以上の病変(nidus typeAVM)は、出血する可能性が高く、MR検査で必ず検出可能です。
小さな病変は、出血しにくいため治療の対象とはせずに、経過観察されることが多いです。
脳の動静脈瘻・動静脈奇形は、多発性の場合もあります。
肺の病変と同じように、ある時点で脳病変がなければ、新たにできることはないと考えられています。(本当にそうかは分かっていませんが)またHHTの患者さんには、頭痛が多いとされています。脳の動静脈瘻・動静脈奇形の治療は、簡単ではありません。
脳神経外科の中でも治療の難しい病気とされています。治療方法は、外科的摘出術、血管内治療、定位放射線治療があります。
定位放射線治療は、病変に高線量の放射線を照射する治療で、ガンマナイフやリニアックナイフ、サイバーナイフなどと呼ばれる方法があります。
HHTの患者さんの場合、多発例も多く、この場合には、すべて外科的にとることは非現実的ですし、1cm以下のmicroAVMの場合は、出血率が低いと考えられており、注意深い経過観察がされることが多いです。
脳梗塞の原因が肺の動静脈瘻であるにも関わらず、そのような診断されずに、一般的な脳梗塞予防の薬である抗血小板薬(アスピリンが多いです)や抗凝固薬が、投与されると消化管出血を悪化させる場合があり、重篤な貧血になる場合もあります。

皮膚病変

皮膚病変は、レーザー治療などが行われることがあります。
電気凝固は奨められないとされています.他、ホルモン療法、止血剤の投与、軟膏の塗布なども行なわれますが、決め手に欠くのが現状です。
鼻出血で出血が止まらない場合には、血管内治療として塞栓術を行う場合がありますが、粘膜病変が消えるわけではないので、その効果は一過性です。
どうしても治療に抵抗する鼻出血に対しては、形成外科医・耳鼻科医により、粘膜病変を切除し、大腿からの植皮を行うことがあります。(サンダース法)
その適応は、鼻出血のため輸血治療を頻繁に必要としている場合で、通常この治療が行われることはありません。
この植皮にまた血管病変が起こったり、植皮でカバーできない部位からの出血が起こり、数年で再発することがあります。
また、粘膜病変を保護する目的で、外鼻孔(鼻の孔)を外科的に閉鎖することもあります。

オスラー病と血栓症

オスラー病の患者さんも、オスラー病以外の病気にかかることが当然あります。
その中には、非弁膜症性心房細動、深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳梗塞、心臓の外科的手術後、など抗血栓療法を必要とすることがあります。
この時、内服する可能性のある抗凝固薬の代表がワルファリンであり、最近は、新しい経口抗凝固薬(new oral anti-coagulant: NOACと呼ばれます)が脳出血の合併症が少ないという理由でワルファリンの代わりに服用される患者さんも増えています。
また、心臓からの塞栓症以外の脳梗塞には、抗血小板薬を内服することになります。
これには、アスピリン、プラビックス、パナルジン、シロスタゾールなどが、該当します。
また、オスラー病患者さんは、血液中の第8凝固因子が増加していて、通常よりも血栓を形成しやすい状態にあります。

[1].これに対して、特に治療の必要はないのですが、血栓性の合併症を起こしやすいことを認識して他の病態の治療を考える必要があります。
問題は、オスラー病の患者さんのほぼ全員が、鼻出血で悩んでおられます。さらに消化管出血も合併している患者さんもいます。
このような状況下で、上記の抗血栓療薬が安全に投与できるか、鼻出血を含め、出血性の合併症はどうなるかが問題です。
投薬する医師側も出血性の合併症を恐れ、投与を躊躇することがあります。

[2].結論的には、注意は必要ですが、必要な抗血栓療薬は、その適応通りオスラー病の患者さんにも投与が必要です [3].つまり、心房細動があれば、抗凝固薬をきちんと飲む必要があります。
これら抗血栓療法の服用によって、多少の鼻出血の悪化は、認められるのですが、まったく投与ができないような状況になることは少ないとされています。
また、ワルファリンを出血の合併症が少ないNOACに変えたりする工夫が必要な場合もあります。

肺動静脈瘻からの塞栓症予防にワルファリンによる内科治療がありますが、肺動静脈瘻の治療の基本は塞栓術です。
カテーテル治療が可能な多くの場合は、ワルファリンよりも塞栓術が、当然優先されます。
塞栓術により、治療をしたその日からワルファリンの投与が不要になることも珍しくはありません。