オスラー病の鼻血は、一般的な鼻血とは異なる特別な血管構造(毛細血管拡張巣、またはテレアンギエクタジー)が原因であるため、その止血治療も独特のアプローチが必要となります。
オスラー病の鼻血の特徴と一般的な鼻血との違い
まず、オスラー病の鼻血の止血治療を理解するために、その特徴を再確認しましょう。

原因となる血管構造の異常: オスラー病では、動脈と静脈が毛細血管を介さずに直接つながる動静脈奇形や、脆弱で拡張した毛細血管(毛細血管拡張巣)が鼻粘膜に多数形成されます。
血管の脆弱性: これらの異常な血管は非常に薄く、破れやすいため、わずかな刺激でも出血します。
止血機能の低下: 正常な血管のように収縮して出血を止める機能が乏しいため、一度出血すると止まりにくいのが特徴です。
頻度と量: 日常的に頻繁に、かつ多量の出血を繰り返すことが多く、慢性的な貧血の原因となります。
一般的な鼻血は、鼻中隔のキーゼルバッハ部位など、比較的限られた範囲からの出血で、圧迫や電気凝固などで比較的容易に止血できます。しかし、オスラー病の鼻血は、鼻腔全体に広がる複数の血管拡張巣から出血する可能性があるため、より専門的なアプローチが必要です。
オスラー病の鼻血に対する止血治療
オスラー病の鼻血の止血治療は、大きく分けて対症療法(出血を止める、軽減する)と根本療法(病変を治療する、予防する)に分かれますが完全止血は出来ません。いかに上手く付き合うかが課題です。
対症療法(出血時または出血リスクが高い場合)
出血している時の応急処置や、出血頻度を減らすための治療です。
鼻腔パッキング(圧迫止血):❌❌❌
出血時に、ガーゼやスポンジ、専用の止血剤を含んだパッキング材を鼻腔内に挿入し、出血部位を圧迫して止血を試みます。
ただし、オスラー病の血管は非常に脆弱なため、無理なパッキングはかえって粘膜を傷つけ、新たな出血を誘発する可能性があります。
専門医は、出血部位を特定し、最小限の力で効果的に圧迫できるよう慎重に行います。
局所的な血管収縮剤❌❌
血管収縮剤を含んだ薬剤を局所的に塗布したり、含浸させたガーゼを留置したりする方法です。
あくまで一時的な効果であり、根本的な治療では無くほぼ増悪します。
レーザー治療:❌❌
Nd:YAGレーザーやKTPレーザーなどを用いて、出血している血管拡張巣を凝固・蒸散させて止血する方法です。
出血部位をピンポイントで治療でき、周囲組織へのダメージを抑えられるため、オスラー病の鼻血に対する重要な治療法の一つです。
ただし、レーザー治療も血管拡張巣が再生するため、定期的な治療が必要となり増悪することが多いです。
サージカルダイアテルミー(電気凝固):❌❌❌
電気メスを用いて、血管を焼灼し止血する方法です。レーザーと同様に、出血部位を凝固させます。
鼻粘膜への負担も考慮し、慎重に行われます。
生命に危機以外には推奨されません、くり返すと鼻中隔穿孔(鼻粘膜に穴が開き)で止血困難になります。
根本療法・予防的治療
出血の頻度や量を長期的に減らすことを目的とした治療です。
経鼻内視鏡下手術:❌❌
内視鏡を用いて鼻腔内を詳細に観察し、広範囲にわたる血管拡張巣に対して、レーザーや電気凝固をより精密に行う手術です。
場合によっては、広範囲の粘膜剥離術や皮膚移植術(ヤング手術など)が検討されることもあります。これらの手術は、異常血管の新生を抑制し、長期的な止血効果を期待しますが、鼻腔機能に影響を及ぼす可能性もあるため、適応は慎重に検討されます。
全身薬物療法:⭕️
トラネキサム酸の内服: 血液の凝固を促進する作用があり、出血量を軽減する目的で内服されることがあります。
アドナは❌
ワセリン・馬油・医療用蜂蜜(保湿剤)の使用:⭕️
鼻粘膜の乾燥は出血を誘発するため、ワセリンなどの保湿剤を鼻腔内に塗布し、粘膜を保護することが推奨されます。
特に乾燥する季節や場所では有効な予防策です。
治療上の重要な注意点
専門医との連携: オスラー病の鼻血治療は、一般的な耳鼻咽喉科医では対応が難しい場合が多く、オスラー病に詳しい耳鼻咽喉科医や、総合病院のHHT専門外来などでの診察が不可欠です。
個別化された治療: 患者さん一人ひとりの出血の程度、血管拡張巣の分布、全身状態によって、最適な治療法は異なります。
継続的な治療: 血管拡張巣は再生することが多いため、多くの治療は単回で完結せず、定期的な経過観察と繰り返し治療が必要となることを理解しておく必要があります。
貧血管理: 鼻血による慢性的な貧血は、全身倦怠感や心臓への負担につながるため、鉄剤の補充や、場合によっては輸血が必要となることもあります。血液内科との連携も重要です。
オスラー病の鼻血は患者さんの生活の質を大きく低下させる要因ですが、改善はされていないため患者のQOLは低下しているため、より効果的な管理が可能になってきています。諦めずに専門医と連携し、ご自身に合った治療法を見つけることが大切です。
患者会推奨止血法
①日常からトランサミン錠服用:医師に相談
②日常からワセリンによる保湿
③綿球No20~12よる止血(空気を遮断)
サージセル・プラスモイストHS-Wなどの止血剤があれば、
1,1/3~1/4程度に薄く剥がす
2,綿球を手のひらで圧迫し細くする。
3,止血材料を8mm×10mm程にする
4,それを綿球に乗せて出血点に誘導し出血点を軽く押さえて5~10分程度落ち着いて様子を見る。
⑤下を向かないよう正面を向き、鼻に圧がかからないようにして、口で深呼吸なとで血圧を安定さす
⑥水分補給(スポーツドリンクを50%程に薄めたもの)
日常の管理と出血の多いときの注意事項
服用薬剤の出血傾向の確認 インターネットで自分で確認がベストです。 薬剤師に聞くときはオスラー病の症状を知っているか確認が必要です。
オスラー病(遺伝性出血性毛細血管拡張症)の患者さんにとって、血液をサラサラにする作用を持つ食品や薬剤は、出血傾向を悪化させる可能性があるため、特に注意が必要です。血管が脆弱なオスラー病の患者さんの場合、一般的な止血機能が低下しているため、血液が固まりにくくなることで、より頻繁に、より多量の出血を招くリスクが高まります。
ここでは、血液をサラサラにする(抗凝固作用や抗血小板作用を持つ)代表的な食品や薬剤について解説します。
オスラー病の注意事項:血液をサラサラにする代表的な食品・薬剤
【重要事項】
以下に挙げるものは、必ずかかりつけの医師やHHT専門医に相談してから摂取・使用するようにしてください。 自己判断での摂取・使用は、重篤な出血を引き起こす可能性があります。
血液をサラサラにする代表的な薬剤(抗凝固薬・抗血小板薬)これらは、心血管疾患(心筋梗塞、脳梗塞、不整脈など)の予防や治療、血栓症の治療などに用いられる薬剤で、オスラー病患者さんにとっては特に注意が必要です。
抗血小板薬(血小板の働きを抑える)
アスピリン(低用量アスピリン、バファリン配合錠Aなど):最も一般的な抗血小板薬。脳梗塞や心筋梗塞の予防によく使われます。
クロピドグレル(プラビックス)
チクロピジン(パナルジン)
プラスグレル(エフィエント)
シロスタゾール(プレタール):脳梗塞の再発予防や、閉塞性動脈硬化症に用いられることもあります。
抗凝固薬(血液の凝固そのものを抑える)
ワルファリン(ワーファリン):昔から使われている経口抗凝固薬。納豆や青汁などビタミンKを多く含む食品との相互作用があります。
DOAC(直接作用型経口抗凝固薬):近年普及している新しいタイプの抗凝固薬。
ダビガトラン(プラザキサ)
リバーロキサバン(イグザレルト)
アピキサバン(エリキュース)
エドキサバン(リクシアナ)
ヘパリン(注射薬):手術前後や急性期の血栓症治療に用いられることが多いです。
血液をサラサラにする可能性のある食品・サプリメント
これらの食品やサプリメントは、薬ほどの強力な作用はありませんが、多量に摂取したり、他の薬剤と併用したりすることで、出血傾向に影響を与える可能性があります。
- ビタミンEを多く含む食品・サプリメント
- ナッツ類(アーモンド、ヘーゼルナッツなど)
- 植物油(ひまわり油、サフラワー油など)
- アボカド
- サプリメントとしてのビタミンE
- ※ビタミンEは抗酸化作用や血行促進作用がありますが、過剰摂取は出血傾向を高める可能性があります。
- EPA/DHA(オメガ-3脂肪酸)を多く含む食品・サプリメント
- 青魚(イワシ、サバ、マグロ、サンマ、カレイなど)
- アマニ油、えごま油
- 魚油サプリメント
- ※これらの脂肪酸は抗炎症作用や血栓予防作用が知られていますが、過剰摂取は出血時間を延長させる可能性があります。
- ポリフェノールを多く含む食品
- 赤ワイン、ブドウジュース
- 玉ねぎ、ニンニク
- 緑茶
- ※一部のポリフェノールには抗血小板作用や抗凝固作用が報告されていますが、通常の摂取量であれば問題になることは少ないと考えられます。しかし、大量摂取やサプリメントは注意が必要です。
- 納豆
- ナットウキナーゼという酵素が含まれており、血栓を溶かす作用(線溶作用)があると言われています。ワルファリン(ワーファリン)との併用は禁忌とされています。
- 生姜、ターメリック(ウコン)
- これらの香辛料にも、血液凝固を抑制する作用が報告されています。大量摂取やサプリメントは注意が必要です。
- ハーブ類
- ギムネマ、イチョウ葉エキス、セントジョーンズワートなど、一部のハーブには血小板機能や血液凝固に影響を与える可能性が示唆されています。サプリメントとしての摂取は特に注意が必要です。
【オスラー病患者へのアドバイス】
- ギムネマ、イチョウ葉エキス、セントジョーンズワートなど、一部のハーブには血小板機能や血液凝固に影響を与える可能性が示唆されています。サプリメントとしての摂取は特に注意が必要です。
- 自己判断しない: 鼻血が多いからといって、勝手にこれらの食品を避けたり、逆に積極的に摂ったりすることは避けてください。
- 摂取量に注意: 日常的な食事で、これらの食品をバランス良く摂る分には問題ないことが多いですが、サプリメントとして濃縮されたものを摂取する場合は、必ず医師に相談してください。
- 情報共有: 診察を受ける際は、現在服用しているすべての薬剤(市販薬、漢方薬、サプリメント含む)について、必ず医師に伝えてください。
オスラー病の治療目標は、出血をコントロールし、患者さんの生活の質を向上させることです。そのためには、出血傾向を悪化させる可能性のある要因を理解し、適切に管理することが非常に重要です。