「肺高血圧」でも、オスラー病(HHT)患者の肺高血圧症は原因によって治療・投薬が異なります
循環器医師にも認知度が低いためオスラー病(HHT)患者は注意が必要です。
必ずオスラー病を認知している医師+循環器医師の診断・治療を受けてください。
オスラー病(遺伝性出血性毛細血管拡張症:HHT)の患者さんでは、肺高血圧症(PH)を合併することがあります。
しかし、オスラー病に合併する肺高血圧症には、主に異なる原因があり、一般的な肺動脈性肺高血圧症と、肝臓の血管奇形によって起こる肺高血圧症では、病気の仕組みや治療方針が異なります。
「肺高血圧症と診断されたから、肺の血管を広げる薬を使えばよい」と単純に判断することはできません。
オスラー病があること、肝臓や肺に血管奇形があることを医師に伝え、原因を正しく調べることが重要です。
1.肺高血圧症(PH)とは
肺高血圧症とは、心臓から肺へ血液を送る「肺動脈」の圧力が高くなる状態の総称です。
進行すると、肺へ血液を送り出す右心室に負担がかかり、次のような症状が現れることがあります。
- 階段や坂道で息切れする
- 以前より歩けなくなった
- 動悸がする
- 強い疲労感がある
- 足がむくむ
- お腹が張る
- 胸が痛む
- めまい、立ちくらみ、失神
- 安静にしていても息苦しい
肺高血圧症には複数の種類があり、肺動脈そのものが細くなる病気、左心系の病気、肺疾患、血栓、全身疾患など、原因によって分類されます。確定診断と病型の判定には、心臓超音波検査だけでなく、必要に応じて右心カテーテル検査が行われます。
2.オスラー病で注意すべき肺高血圧症は主に2種類あります
① 肝臓の血管奇形による「高拍出性心不全」に伴う肺高血圧症
オスラー病では、肝臓の中に動脈と静脈が直接つながる「肝血管奇形・肝動静脈シャント」ができることがあります。
肝臓のシャントを大量の血液が流れると、心臓は全身に必要な量を超えて血液を送り続けなければならなくなります。
このように、心臓が通常より多くの血液を送り出し続ける状態を、高心拍出状態と呼びます。
高心拍出状態が続くと、
- 心臓の拡大
- 左心房の圧上昇
- 三尖弁逆流
- 不整脈
- 右心系への負担
- 肺動脈圧の上昇
- 高拍出性心不全
などが起こることがあります。
つまり、肺の血管だけが原因なのではなく、肝臓のシャントによって心臓へ戻る血液量が増え、心臓と肺循環に過剰な負担がかかることで肺高血圧症が起きている場合があります。
HHTでみられる肺高血圧症では、この高心拍出状態や左心系への負担に伴うタイプが重要です。
② 肺動脈そのものが狭くなる「肺動脈性肺高血圧症(PAH)」
オスラー病の一部では、肺の細い動脈そのものに異常が起こり、肺血管抵抗が高くなる「肺動脈性肺高血圧症」を合併することがあります。
特に、オスラー病2型に関係することの多いACVRL1(ALK1)遺伝子は、遺伝性肺動脈性肺高血圧症にも関係しています。
このタイプは、肝臓のシャントによる高拍出性心不全とは病態が異なり、肺動脈性肺高血圧症としての専門的な治療が必要になる場合があります。
ただし、オスラー病における真の肺動脈性肺高血圧症は、高心拍出状態などによる肺高血圧症より少ないとされています。GeneReviewsでは、HHTにおける肺動脈性肺高血圧症は約1~2%とされ、WHO第2群に相当する肺高血圧症の方が多いと記載されています。
3.肺動静脈奇形と肺高血圧症は別の病気です
オスラー病では「肺動静脈奇形(肺動静脈瘻)」も多くみられますが、肺動静脈奇形と肺高血圧症は同じものではありません。
肺動静脈奇形
肺の動脈と静脈が毛細血管を通らずに直接つながるため、酸素の少ない血液が全身へ流れます。
そのため、
- 酸素飽和度の低下
- 息切れ
- 脳梗塞
- 脳膿瘍
- 一過性脳虚血発作
などの原因になります。
肺高血圧症
肺動脈の圧力が高くなり、主に右心室へ負担をかける病気です。
肺動静脈奇形と肺高血圧症が同時に存在することもあります。息切れや低酸素をすべて肺動静脈奇形だけで説明せず、心臓、肝臓、貧血を含めて総合的に調べる必要があります。
4.最も大切な注意点
「肺動脈圧が高い」という結果だけでは原因は分かりません
心臓超音波検査では、三尖弁逆流などから肺動脈圧を推定します。
しかし、心臓超音波検査だけでは、
- 肝シャントによる血流量の増加なのか
- 左心房や左心系の圧上昇が関係しているのか
- 肺動脈そのものの抵抗が高いのか
- 貧血や甲状腺機能、不整脈などが影響しているのか
- 複数の原因が重なっているのか
を完全には区別できないことがあります。
治療方針を決める際には、必要に応じて右心カテーテル検査を行い、次のような数値を確認します。
- 平均肺動脈圧
- 肺動脈楔入圧
- 心拍出量
- 心係数
- 肺血管抵抗
- 右心房圧
特にオスラー病の肝血管奇形では、心拍出量が非常に多くなっている場合があります。
そのため、肺動脈圧だけでなく、心拍出量と肺血管抵抗を一緒に評価することが重要です。 国際HHTガイドラインでも、肝血管奇形に伴う高拍出性心不全と肺高血圧症は、HHTを理解する医師と肺高血圧症専門医などが共同して管理することが推奨されています。
5.一般的な肺高血圧症の薬を自己判断で使用・中止してはいけません
肺動脈性肺高血圧症では、肺血管を広げたり、肺血管の異常な変化を抑えたりする薬が使用されます。
しかし、肝血管奇形による高拍出性心不全では、肺高血圧症の発生原因が「肺の血管の収縮」だけではありません。
主な問題が、
- 肝臓の大きなシャント
- 循環血液量の過剰
- 左心系の圧上昇
- 重度の貧血
- 不整脈
- 弁膜症
などにある場合、一般的な肺動脈性肺高血圧症と同じ治療が適切とは限りません。
薬によっては、
- 血圧低下
- 動悸
- むくみ
- 貧血や鼻出血への影響
- 心不全症状の変化
などを生じる可能性もあります。
重要なのは、薬が良いか悪いかを患者さん自身で判断することではなく、自分の肺高血圧症がどの病型なのか確認したうえで治療を受けることです。
現在服用している薬を自己判断で中止・減量することも危険です。症状や鼻出血が悪化した場合は、処方した医師とHHTを理解する医師の双方に相談してください。
6.貧血を放置しないことが非常に重要です
オスラー病では、鼻出血や消化管出血によって鉄欠乏性貧血が起こりやすくなります。
貧血になると、全身に酸素を届けるために心臓がより多くの血液を送り出そうとします。
肝臓に大きなシャントがある患者さんでは、もともと心拍出量が増えやすいため、貧血が加わることで心臓への負担がさらに大きくなる可能性があります。
そのため、ヘモグロビン値だけでなく、
- フェリチン
- 血清鉄
- トランスフェリン飽和度
- 赤血球数
- 鼻出血や消化管出血の程度
などを定期的に確認することが大切です。
「ヘモグロビンが基準値内だから大丈夫」とは限りません。鉄の蓄えであるフェリチンが低下している段階から治療が必要になる場合があります。
肝血管奇形に伴う高拍出状態では、貧血の予防と改善が心臓への負担を減らすうえで重要です。
7.オスラー病の肝血管奇形に対する治療
肝臓に血管奇形が見つかっても、症状がなく、心臓や胆道などに異常がなければ、すべての患者さんに治療が必要になるわけではありません。
症状や合併症がある場合には、状態に応じて次の治療が検討されます。
基本的な治療
- 貧血と鉄欠乏の改善
- 塩分や水分量の調整
- 利尿薬などによる心不全管理
- 不整脈の治療
- 血圧や心拍数の管理
- 鼻出血・消化管出血の管理
ベバシズマブの静脈投与
国際HHTガイドラインでは、肝血管奇形による症候性の高拍出性心不全が通常の治療で十分に改善しない場合、静脈内ベバシズマブを検討することが推奨されています。
ただし、すべての患者さんに適する治療ではなく、血圧、腎機能、血栓、創傷治癒などへの注意を含め、専門医による判断と管理が必要です。
肝移植
治療に反応しない高拍出性心不全、胆道虚血、重い門脈圧亢進症などでは、肝移植が検討される場合があります。
肺高血圧症がある場合には、手術の安全性を判断するため、右心カテーテル検査による肺血管抵抗などの詳しい評価が重要になります。
8.肝動脈塞栓術と肝生検には特別な注意が必要です
肝動脈塞栓術
肝臓のシャントを閉じる目的で肝動脈塞栓術が考えられることがありますが、オスラー病の肝血管奇形では、肝壊死、胆道障害、重い合併症などを起こす危険があります。
国際HHTガイドラインでは、肝動脈塞栓術は一時的な効果にとどまり、重大な合併症や死亡の危険を伴うため、原則として避けることが推奨されています。
肝生検
オスラー病の肝臓には異常に発達した血管が多数存在する場合があります。
そのため、肝生検によって大出血を起こす危険があり、オスラー病が確定または疑われる患者さんでは、肝生検を避けることが国際ガイドラインで強く推奨されています。
検査や治療を受ける前に、必ず「オスラー病で肝血管奇形があります」と伝えてください。
9.どのような検査が必要ですか
患者さんの状態によって異なりますが、一般的には次の検査が検討されます。
血液検査
- ヘモグロビン
- フェリチン
- 血清鉄・トランスフェリン飽和度
- BNPまたはNT-proBNP
- 肝機能
- 腎機能
- 甲状腺機能
心臓の検査
- 心電図
- 心臓超音波検査
- 24時間心電図
- 必要に応じた右心カテーテル検査
肝臓の検査
- 肝ドプラ超音波検査
- 造影CT
- MRI
- 肝動脈径や肝静脈血流などの評価
呼吸・肺の検査
- 酸素飽和度
- 呼吸機能検査
- 6分間歩行試験
- 胸部CT
- 肺動静脈奇形の評価
検査結果は個別に見るのではなく、循環器内科、呼吸器内科、放射線科、肝臓内科、血液内科、耳鼻咽喉科などが連携して判断することが望まれます。
10.次の症状があるときは、早めに医療機関へ相談してください
- 今までより明らかに息切れが強くなった
- 安静にしていても息苦しい
- 急に足のむくみが増えた
- 数日で体重が急増した
- お腹が急に張ってきた
- 動悸が長く続く
- 胸痛がある
- めまい、失神がある
- 唇や顔色が青白い
- 強い鼻出血や消化管出血が続いている
- 強い倦怠感があり、歩くことが難しい
意識障害、失神、強い胸痛、急激な呼吸困難、片側の麻痺や言葉の障害などがある場合は、救急要請を検討してください。
11.受診時に医師へ伝えていただきたいこと
診察時には、次の事項を医師へ伝えてください。
- オスラー病である、または疑われていること
- 肝血管奇形・肝動静脈シャントの有無
- 肺動静脈奇形の有無と治療歴
- 鼻出血・消化管出血の頻度
- 鉄欠乏性貧血の治療歴
- 遺伝子検査を受けている場合は、その結果
- 心臓超音波検査や右心カテーテル検査の結果
- 現在服用している薬と、服用後の鼻出血・動悸・むくみの変化
特に重要なのは、次のように確認することです。
私の肺高血圧症は、肺動脈そのものの病気でしょうか。
それとも、肝臓のシャントによる高心拍出状態や左心系の負担が原因でしょうか。
心拍出量と肺血管抵抗は確認されていますか。
患者会から皆さまへ
オスラー病の患者さんに肺高血圧症が見つかった場合、病名だけを見て一般的な肺高血圧症と同じ治療を行うのではなく、肝血管奇形、高心拍出状態、心不全、貧血、肺動静脈奇形を含めて原因を調べることが重要です。
オスラー病は、鼻だけ、肺だけ、肝臓だけの病気ではありません。
全身の血管に関係する病気であり、複数の診療科が連携して診療する必要があります。
国際HHTガイドラインでも、肝血管奇形による高拍出性心不全と肺高血圧症について、HHTを理解する専門チームと肺高血圧症の専門医が共同で管理することが強く推奨されています。
症状や検査結果に疑問がある場合は、治療を自己判断で変更せず、オスラー病と肺高血圧症の双方を理解する医師へ相談してください。
重要なお知らせ
本記事は、オスラー病患者さんとご家族が病気を理解するための一般的な情報です。個々の患者さんの診断や治療を決定するものではありません。
治療薬の開始・中止・変更は自己判断で行わず、必ず主治医または専門医へご相談ください。
特定非営利活動法人 日本オスラー病患者会

