最も重要なのは、HHTの肝病変は一般的な「肝硬変」や「肝炎」とはかなり性質が異なり、肝臓内に多数の異常血管・シャントが形成されることで、心臓・肺循環・門脈・胆道にまで影響する全身性の循環障害として捉える必要がある点です。
1.HHTの肝病変はかなり多い
画像検査を行うと、HHT患者の約40~70%程度に肝血管奇形が認められるとされています。一方、実際に肝病変による症状を呈する人は10%未満とされ、多くは無症状です。
特に、
- ACVRL1(ALK1)変異のHHT2
- 女性
- 中高年
では肝病変が比較的多いことが報告されています。2023年のレビューでは、HHT2は症候性肝病変のリスクが高く、肝病変は女性により多く、平均診断年齢は約48歳とされています。
2.肝臓の中では何が起きているのか
HHTでは正常なら、
動脈 → 毛細血管 → 静脈
と流れる血液が、毛細血管を介さず直接つながる異常血管を形成します。
肝臓では主として3種類あります。
| シャント | 異常な血流 | 主な問題 |
|---|---|---|
| 肝動脈→肝静脈 | Arteriovenous shunt | 高拍出性心不全、肺高血圧 |
| 肝動脈→門脈 | Arterioportal shunt | 門脈圧亢進、胆道虚血 |
| 門脈→肝静脈 | Portovenous shunt | 高拍出状態、肝性脳症 |
実際には、これらが単独ではなく複数混在して肝臓全体に広がることが多いとされています。
3.最も重要な症状① 高拍出性心不全
HHT肝病変で特に重要なのが、
High-output cardiac failure(HOCF:高拍出性心不全)
です。
普通の心不全は「心臓が十分血液を送れない」ことが問題になります。
ところがHHT肝病変では逆に、
肝臓の異常血管へ大量の血液が流れる
↓
心臓が大量の血液を送り続ける
↓
心拍出量が異常に増加
↓
長期間続くと心臓が疲弊する
という経過をとります。
そのため、一般的な「心機能が弱って起きる心不全」とは病態が違います。
症状
初期には、
- 動悸
- 脈拍が速い
- 疲れやすい
- 階段や坂道で息切れ
- 運動耐容能低下
などがあります。
進行すると、
- 安静時の息切れ
- 足のむくみ
- 腹水
- 体重増加
- 頸静脈怒張
- 右心不全
- 心房細動
などが出ることがあります。
特に重要なのが、
肝臓の病気なのに、最初に「心臓の症状」として出てくる
という点です。
4.肺高血圧にも注意
大量の肝シャントが続くと、肺循環にも負担がかかり、
高心拍出状態 → 左心系負荷 → 肺高血圧
につながる場合があります。
一方、HHTではACVRL1変異などに関連する肺動脈性肺高血圧(PAH)も存在します。
したがって、
HHT+肺高血圧=すべて同じ病態
ではありません。
これは治療上非常に重要で、
- 高拍出性心不全由来
- 左心系由来
- 真のPAH
- 複合型
を心エコーや必要に応じて右心カテーテル検査などで区別する必要があります。
GeneReviewsでも、HHTで肺動脈性肺高血圧そのものは約1~2%ですが、WHO Group 2型の肺高血圧はより多いとされています。
5.症状② 門脈圧亢進症
肝動脈から門脈へ大量の血液が流れ込むと、
門脈圧亢進
を起こすことがあります。
症状としては、
- 脾腫
- 血小板減少
- 腹水
- 食道静脈瘤
- 胃静脈瘤
- 腹部膨満
などです。
ただし、普通の肝硬変による門脈圧亢進とは原因が違います。
6.症状③ 胆道虚血・虚血性胆管炎
これは重症例で特に注意すべき合併症です。
胆管は主に肝動脈から血液供給を受けています。
ところが肝動脈の血液がAVMへ大量に流れると、
胆管への血流不足
が起こり、
- 胆管虚血
- 胆管壊死
- 胆管狭窄
- 胆管炎
- 肝膿瘍
につながることがあります。
症状は、
- 右上腹部痛
- 発熱
- 黄疸
- ALP・γ-GTP上昇
- ビリルビン上昇
などです。
発熱+右上腹部痛+黄疸などが出た場合は、通常の経過観察ではなく速やかな評価が必要です。
7.症状④ 肝性脳症
門脈血が肝臓を十分に通過せず直接静脈へ流れる門脈―肝静脈シャントが大きくなると、アンモニアなどの処理が不十分になり、
- 集中力低下
- 昼夜逆転
- ぼんやりする
- 手の震え
- 意識障害
などの肝性脳症を起こすことがあります。
ただし頻度は高くありません。
8.「肝硬変のように見える」ことがある
これは患者にも医療者にも非常に重要なポイントです。
HHTではCTや超音波で、
- 肝表面不整
- 結節状肝
- 肝腫大
などがみられ、
「肝硬変ではないか」
と言われることがあります。
しかしGeneReviewsでは、HHT自体が典型的な肝硬変を起こすとは一般に考えられておらず、しばしば
nodular regenerative hyperplasia
=結節性再生性過形成
などの血流異常による変化であるとされています。
つまり、
画像上「肝硬変様」=通常の慢性肝炎による肝硬変
とは限りません。
9.肝機能検査が正常でも安心とは限らない
ここもHHT肝病変の重要な特徴です。
HHT肝病変では、
AST・ALTが比較的正常でも、肝シャントがかなり存在する
ことがあります。
病態の中心が肝細胞の炎症ではなく、
血管・血流異常
だからです。
一方、
- ALP
- γ-GTP
- ビリルビン
などの胆道系指標が上昇する場合があります。
国際ガイドラインでも、
- 心不全
- 肺高血圧
- 心臓バイオマーカー異常
- 肝機能異常
- 腹痛
- 門脈圧亢進
- 脳症
などがあれば、肝VMを積極的に評価することを推奨しています。
10.検査:まず重要なのは肝ドプラ超音波
2020年国際HHTガイドラインでは、
確定または疑いHHTの成人には、肝VMスクリーニングを提案する
とされています。
第一候補
肝ドプラ超音波
専門的に評価できる施設であれば非常に有用です。
確認するのは例えば、
- 総肝動脈径
- 肝動脈血流速度
- Resistive Index
- 肝内血管増生
- 門脈血流
- 肝静脈波形
- シャントの程度
などです。
肝動脈拡張や異常な高流速は、肝VMの重要な所見になります。ドプラ超音波による重症度分類は予後とも関連します。
11.CT・MRI
必要に応じて、
多相造影CT
または
造影MRI
を行います。
国際ガイドラインでも、
- ドプラ超音波
- 多相造影CT
- 造影腹部MRI
が推奨されています。
特にCTでは、
- 肝動脈拡張
- 動静脈シャント
- 早期静脈描出
- 門脈シャント
- 胆道異常
- 肝腫大
などが分かります。
12.心臓も同時に調べることが重要
肝VMが高度なら、
「肝臓だけ診ればよい」わけではありません。
GeneReviewsでも、重度肝AVMまたは心不全症状がある場合、
心拍出量を含む心エコー評価
を行うことが推奨されています。
特に見るべきなのは、
- 心拍数
- 左右心房・心室サイズ
- 心拍出量
- Cardiac Index
- 推定肺動脈圧
- 三尖弁逆流
- BNP / NT-proBNP
などです。
実際には
肝臓内科+循環器内科+HHT専門医
の連携が非常に重要になります。
13.治療① 無症状なら基本は経過観察
肝VMが見つかったからといって、すべて治療するわけではありません。
実際、大部分の患者は無症状です。
その場合には、
- 症状
- 心エコー
- 肝機能
- BNP/NT-proBNP
- ドプラ超音波
などでフォローします。
2023年レビューでは、標準化されたフォロー間隔は確立していませんが、病変の程度に応じて1~2年ごとの超音波評価が実臨床で行われているとされています。
14.治療② 高拍出性心不全
第一段階は循環器専門医による心不全治療です。
例えば、
- 塩分管理
- 利尿薬
- 貧血の改善
- 不整脈治療
- 心不全治療
などです。
ここでHHTでは特に重要なのが貧血です。
鼻出血や消化管出血による鉄欠乏性貧血があると、
貧血
→ 心臓が多く血液を送り出そうとする
→ 高拍出状態がさらに増悪
する可能性があります。
したがって、
Hbだけでなくフェリチン・鉄欠乏を適切に補正すること
も重要です。
15.治療③ ベバシズマブ
重症の肝VMによる高拍出性心不全で、通常治療で十分改善しない場合、
静注ベバシズマブ
が選択肢になります。
国際HHTガイドラインでは、
肝VMによる症候性高拍出性心不全で、第一選択治療に反応しない場合、静注ベバシズマブを検討
とされています。
初期の第II相試験でも、重度肝病変と高心拍出を有するHHT患者で、ベバシズマブにより心拍出量の改善が検討されています。
ただし、
「肝VMがあるから使う薬」ではありません。
高血圧、蛋白尿、血栓、創傷治癒障害などの問題もあるため、HHT診療に経験のある施設での判断が重要です。
16.最重症では肝移植
以下のような場合には、
肝移植
が検討されます。
- 治療抵抗性高拍出性心不全
- 虚血性胆管炎
- 重度胆道虚血
- 複雑な門脈圧亢進症
GeneReviewsおよび国際ガイドラインでも、こうした重症肝病変では肝移植を検討することが推奨されています。
HHT肝病変83例の肝移植をまとめた系統的レビューでは、主な移植適応は高拍出性心不全と虚血性胆管炎でした。
肝臓を移植すると異常な肝シャントそのものがなくなるため、重症例では循環動態が大きく改善することがあります。
17.非常に重要:肝動脈塞栓術は原則として慎重
肺AVMなら「カテーテル塞栓術」が標準治療ですが、
肝AVMでは同じ発想で塞栓してはいけません。
肝動脈塞栓などは、
- 肝梗塞
- 胆管壊死
- 胆管炎
- 肝不全
- 死亡
などの重大な合併症が報告されています。
GeneReviewsでも、肝AVMの塞栓術は致死的肝梗塞につながったことが記載されています。
欧州肝移植レジストリの報告でも、移植前に行われた肝動脈への処置では重篤な合併症が多く、肝動脈に対する姑息的介入を避けるべきとされています。
これは患者向け情報として強調すべき点だと思います。
18.肝生検も原則避ける
HHT、特に肝血管奇形がある患者では、
経皮的肝生検は出血リスクがあるため原則避ける
ことが推奨されています。GeneReviewsでも「liver biopsyを避ける」と明記されています。
肝臓に結節が見つかっても、
いきなり生検
ではなく、
CT・MRI・超音波などで非侵襲的に評価することが重要です。
HHT肝病変を患者向けに整理すると
| 段階 | 状況 | 主な症状 | 対策 |
|---|---|---|---|
| ① 無症候性 | 肝VMあり、症状なし | なし | 定期評価 |
| ② 高流量状態 | 肝シャント増加 | 動悸、疲労 | 心エコー・貧血管理 |
| ③ 高拍出性心不全 | 心臓負荷増大 | 息切れ、浮腫 | 循環器治療 |
| ④ 肺高血圧 | 肺循環負荷 | 息切れ、失神など | PH病型評価 |
| ⑤ 門脈圧亢進 | 動脈→門脈シャント | 腹水、脾腫、静脈瘤 | 専門管理 |
| ⑥ 胆道虚血 | 胆管血流不足 | 腹痛、発熱、黄疸 | 緊急評価 |
| ⑦ 難治性重症例 | 心不全・胆道障害 | 重症化 | ベバシズマブ/肝移植検討 |
患者さんが医師に確認してよい項目
HHTで肝病変が疑われる場合、単に「肝機能は正常だから大丈夫です」で終わらず、
① 肝ドプラ超音波
② 肝動脈径・血流
③ 肝内シャントの程度
④ 心エコー・心拍出量
⑤ 推定肺動脈圧
⑥ BNPまたはNT-proBNP
⑦ Hb・フェリチン
⑧ ALP・γ-GTP・ビリルビン
などを総合して評価する方がHHTの病態に合っています。国際ガイドラインも肝VM症状が疑われる場合、肝画像と心肺系を含めた専門的評価を勧めています。
特に早めの受診が必要な症状
以前より明らかに息切れする、安静でも脈が速い、足がむくむ、腹水、急な体重増加、失神・前失神、右上腹部痛、発熱、黄疸、意識がぼんやりするといった症状があれば、「肝臓」だけではなく肝VMによる循環器合併症を念頭に置いた評価が必要です。
患者会として特に重要だと思われるポイント
HHT肝病変については、患者向けには「肝臓にAVMがあります」という説明だけでは不十分です。
むしろ、
「HHTの肝病変は肝臓だけの問題ではなく、大量の肝内シャントによって心不全・肺高血圧・門脈圧亢進・胆道虚血を起こし得る全身循環の問題である」
と説明する方が適切です。
また、肺AVMでは塞栓術が治療になる一方、肝VMでは安易な肝動脈塞栓術が危険になり得るという違いも、患者・一般医療者双方への啓発としてかなり重要です。
※本資料はHHT患者と医療関係者との診療上の情報共有を目的としたものであり、個々の患者の診断・治療を一律に規定するものではありません。診療方針は、患者の病態に応じて担当医・専門医が判断してください。但し、消化器内科でHHTに詳しい医師は少ないので患者会医療情報等を参考にして受診してください。
特定非営利活動法人 日本オスラー病患者会 理事長 村上匡寛


