長年放置されてきたオスラー病の誤った説明が改善されました
長年にわたり放置されてきた、「オスラー病の鼻出血に関する説明文」が、このたび患者会の要望し交渉を重ねたことにより改善されました。
しかし、誤った情報が公的な情報として掲載され続け、医療現場においてオスラー病の病態を十分に理解しないまま、一般的な鼻出血と同様の焼灼処置やレーザー止血が繰り返されてきた結果、鼻出血の増悪や止血困難、鼻中隔穿孔などの深刻な被害が既に発生していました。
鼻中隔穿孔とは、左右の鼻腔を隔てる鼻中隔に穴が開く状態であり、一度生じると容易に元へ戻すことはできません。穿孔部の乾燥や痂皮形成、出血の反復などにより、患者が長期間にわたり苦痛を受け続ける場合があります。
特に、オスラー病では鼻腔内に脆弱な異常血管が多発(鼻腔内多発性毛細血管出血)しているため、病態や処置部位、照射範囲、施術回数などを十分に考慮せず、レーザー止血や焼灼処置を安易に繰り返すことは、正常粘膜の損傷、瘢痕化、出血部位の拡大、鼻中隔穿孔などを招くおそれがあります。
患者会には、レーザー止血や焼灼処置を受けた後に鼻出血が悪化した、以前より止血が困難になった、鼻中隔穿孔が生じたとする相談が寄せられています。これらは決して看過できる問題ではありません。
今回、説明文が修正されたこと自体は前進です。しかし、患者会が長年にわたり改善を求めてきたにもかかわらず、実際に患者被害が発生するまで適切な見直しが行われなかった経緯を考えれば、今回の修正だけで十分とは到底いえません。
誤った、または不十分な情報が長期間にわたり掲載され続けたことについて、どのような検証が行われ、なぜ患者からの指摘が反映されなかったのかを明らかにする必要があります。また、既に被害を受けた患者の実態把握と、同様の被害を繰り返さないための医療者への周知および教育も不可欠です。
一方で、厚生労働省が推進するPPI(患者・市民参画)により、患者当事者の経験と意見が公的な情報の改善につながったことについては、一定の評価をしています。
特定非営利活動法人日本オスラー病患者会(以下「患者会」といいます。)では、理事長が長年にわたり、医療関係者、研究関係者および関係機関に対し、オスラー病の鼻出血に関する誤った説明や不適切な止血方法について、繰り返し改善を求めてきました。
しかし、患者から実際の被害や問題点を伝え、研究や検証、記載内容の見直しを要望しても、適切な対応が行われることはなく、長期間にわたり事実上放置されてきました。
そのため、患者会理事長が厚生労働省難病対策課に対して正式に要望書を提出し、協議を重ねた結果、今回、以下のとおり説明内容の改善が行われました。
今回の改善は、患者会が長年訴え続けてきた問題が、ようやく公的に認識され始めたものと受け止めています。
しかし、文章を修正するだけでは、既に発生した鼻中隔穿孔、レーザー止血後の増悪、止血困難などの患者被害が解消されるものではありません。患者被害を生じさせた背景を検証し、全国の医療機関に対して正しい情報を速やかに周知するとともに、再発防止策を講じることが必要です。
今後も患者会は、これまで「存在しないもの」として扱われ、見過ごされてきたオスラー病患者の問題や医療被害を明らかにし、患者の安全と適切な医療につながるよう、継続して問題提起と改善要望を行ってまいります。
修正前の旧文章
7.この病気にはとのような治療法がありますか?
鼻出血は、軽症てあればスポンゼルの圧迫や軟膏治療、中等症てあればレーザーなどによる粘膜焼灼術が行なわれます。重症例に対しては鼻粘膜皮膚置換術や鼻腔閉鎖術が行なわれます。
肺動静脈奇形(痩)ては、奇異性塞栓症(静脈内ててきた血栓や静脈内に入り込んだ細菌が肺動静脈奇形を通過して脳や心臓などの臓器て塞栓を起こす)、低酸素血症、破裂がおきる可能性があり、それらを予防するために、カテーテルによって肺動静脈痩内に金属ててきたコイルやプラグを留置する治療(経カテーテル的肺動静脈痩塞栓術)が行なわれます。画像的に肺動静脈痩(奇形)を認めた場合は、大きさに関係なく治療を検討します。
修正された解説
7.この病気にはどのような治療法がありますか?
オスラー病患者の靡粘膜は外的刺激に弱いため、出血の予防として靡粘膜の加湿、保護が重要で、マスクの着用や、鼻の入り口へのワセリン塗布などによる乾燥防止が基本になります。電気凝固やレーザーによる処置は、非出血時または軽度の昴出血には効果を示すことがありますが、過度の処置は鼻出血を悪化させたり、鼻中隔穿孔を起こしたりすることがあるので注意が必要です。
一方、鼻出血時の処置として、医療機関では軟齊をつけたガーゼや止血用の資材を挿入することがありますが、丁寧な挿入が望まれます。また、自宅での処置は軽度の圧迫が基本で、柔らかい止血用の資材を用いることも効果的です。過度の圧迫は出血の増悪を招きますので、軽く小靡をつまむ程度の圧迫を行います。その際に、血液がのどや胃に落ちないように、座ったままうつむいた姿勢を取ります。これらの処置でも止血しない場合には、オスラー病に詳しい耳鼻咽喉科専門医の受診をおすすめします。
肺動静脈奇形(痩)では、奇異性塞栓症(静脈内でできた血栓や静脈内に入り込んだ細菌が肺動静脈奇形を通過して脳や心臓などの臓器で塞栓を起こす)、低酸素血症、破裂がおきる可能性があり、それらを予防するために、カテーテルによって肺動静脈痩内に金属でできたコイルやプラグを留置する治療(経カテーテル的肺動静脈痩塞栓術)が行われます。画像的に肺動静脈壊(奇形)を認めた場合は、大きさに関係なく治療を検討します。
参考情報
・止血材の資材とは→サージセルなどの医療材料です。
・オスラー病に詳しい耳鼻咽喉科専門医→全国的に非常に少ない状況ですので、受診時に確認を推奨します。なぜならば誤った処置をされるケースが多発しているためです。
※大量出血・生命危機時など緊急時は除きます。
・出血時下を向くことは患者会としては推奨しません。
「鼻血の病気」では終わらない――指定難病オスラー病で、いま解決すべき7つの問題
オスラー病(遺伝性出血性毛細血管拡張症/HHT)は、くり返す鼻出血だけでなく、肺、脳、肝臓、消化管など全身の血管に異常が生じる遺伝性の指定難病です。
しかし、医療現場ではいまだに「鼻血の病気」として扱われ、必要な全身検査や診療科間の連携が行われないまま、重大な合併症が発生して初めて診断される患者が少なくありません。
特定非営利活動法人日本オスラー病患者会には、診断の遅れ、受診先が見つからない、肺や脳の検査を受けていない、鼻出血に対して不適切な処置を受けたなど、全国の患者・家族から多くの相談が寄せられています。
推定患者約1万人に対し、受給者証所持者は1,047人
難病情報センターでは、日本国内のオスラー病患者は約1万人と推定されています。一方、厚生労働省の統計によると、2024年度末の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は1,047人です。
受給者証所持者数は、診断患者数そのものではありません。軽症者、未申請者、重症度基準を満たさない患者などもいるため、この数字だけから診断率を算出することはできません。
しかし、推定患者数と制度上把握されている患者数との間に、大きな隔たりがあることは明らかです。
患者会では、国内の診断率を約10%と考えており、多くの患者が未診断、疑診、経過観察のまま残されている可能性を指摘しています。
問題1 診断に必要な問診が行われていない
オスラー病の診断では、次の4項目が重要です。
- 自然にくり返す鼻出血
- 唇、舌、口腔、顔、手指などの毛細血管拡張
- 肺、脳、肝臓、消化管などの血管病変
- 1親等の家族歴
このうち3項目以上を満たす場合は確診、2項目では疑診とされます。また、ENG、ACVRL1、SMAD4などの遺伝学的検査も診断に用いられます。
ところが、鼻血で医療機関を受診しても、舌や指先の赤い点、家族の鼻血、肺・脳・肝臓の病変について問診されないことがあります。
「鼻血はありますか」だけでなく、「子どもの頃から自然にくり返していないか」「親や兄弟にも同様の鼻血がないか」という問診が必要です。
問題2 全身性疾患なのに診療科が分断されている
オスラー病は、耳鼻咽喉科、放射線科、呼吸器内科、脳神経外科、循環器内科、消化器内科、肝臓内科、血液内科、遺伝診療部など、多数の診療科に関係します。
ところが、現在の診療体制では、それぞれの診療科が担当する臓器だけを診察し、全身を把握して必要な診療科へつなぐ医師がほとんどいません。
患者が自ら医学情報を調べ、それぞれの診療科に説明しなければ治療が進まない状態は、適切な難病医療とはいえません。
少なくとも研究班の医師が所属する医療機関や大学病院では、オスラー病を診断し、必要な検査を実施し、院内外の専門診療科へつなぐ体制が必要です。
問題3 肺・脳などの全身スクリーニングが徹底されていない
肺動静脈奇形は、自覚症状がなくても、血栓や細菌が肺の異常血管を通過することで、脳梗塞、TIA、脳膿瘍などを引き起こす可能性があります。
国際HHTガイドラインでは、オスラー病の確診例だけでなく疑診例についても、肺動静脈奇形のスクリーニングを推奨しています。また、脳血管奇形や肝血管奇形についても、病態に応じた評価が必要です。
診断しただけで終わらせず、肺・脳・肝臓・消化管・貧血などを確認する「診断後の標準検査セット」を全国で統一する必要があります。
問題4 オスラー病の鼻出血が「一般的な鼻血」と同じように扱われている
オスラー病の鼻出血は、鼻腔内に多発する脆弱な毛細血管拡張から生じる反復性の出血です。
一般的な鼻出血と同じように、強い圧迫、多量のガーゼパッキング、反復する電気焼灼などが行われると、周囲の粘膜を傷つけ、新たな出血や鼻中隔穿孔につながる可能性があります。
一方、国際ガイドラインでは、保湿療法やトラネキサム酸で十分な効果が得られない患者に対し、レーザー、電気凝固、硬化療法などを検討することも示されています。ただし、効果は一時的な場合があり、鼻中隔穿孔はこれらの治療に共通する既知の合併症です。
したがって問題は、レーザーや電気凝固そのものではなく、オスラー病の病態を理解しないまま、適応、方法、回数、粘膜への負担が十分検討されずに処置がくり返されることです。
オスラー病に詳しい耳鼻咽喉科医による評価と、患者への十分な説明、共同意思決定が必要です。
問題5 肝血管病変に伴う肺高血圧症の病型が十分に区別されていない
オスラー病の肝血管奇形では、肝臓内のシャントによって心臓へ戻る血流が増え、高拍出性心不全や肺高血圧症を発症することがあります。
これは、肺血管抵抗の上昇を主病態とする肺動脈性肺高血圧症(PAH)とは、治療方針が異なる可能性があります。
国際ガイドラインでは、心不全症状や肺高血圧症が疑われる場合、右心カテーテル検査によって心拍出量、肺血管抵抗、肺動脈楔入圧などを評価し、肺高血圧症の病型を正確に判断することが重要とされています。
「肺高血圧症」という病名だけで治療を決めるのではなく、HHT、肝血管奇形、貧血、出血状態を含めた総合評価が必要です。
問題6 医学的必要性より保険査定が優先される可能性
多発性肺動静脈奇形では、一人の患者に複数の治療部位が存在し、多数の塞栓用コイルが必要になることがあります。
患者会には、コイルの使用本数に対する査定を懸念して治療を分割せざるを得ないという現場の意見が寄せられています。
必要な治療を過度に分割すれば、入院、検査、造影剤、放射線被ばく、医師・看護師の人件費、患者の交通費や休業負担が、その回数分増加します。
明文化された全国一律の本数制限が確認されていないのであれば、病変数、血管径、治療時間、患者の状態など、医学的必要性に基づいて評価する仕組みが必要です。
問題7 PPIが「意見を聞くだけ」で終わっている
患者・市民参画(PPI)は、完成した資料について患者に感想を求めることではありません。
患者が日常生活で経験している診療拒否、診断遅延、治療アクセス、経済的負担、制度の空白などを、研究課題の設定段階から反映することが必要です。
患者会は、研究計画、診療ガイドライン、患者向け資料、政策評価などに継続的に参加し、患者意見を採用した点、採用しなかった点とその理由が記録される仕組みを求めています。
国際HHTガイドラインも、HHT専門家だけでなく患者が参加して作成されています。
患者自身の努力だけに任せてはならない
現在、患者は患者会の資料を持参し、自分の病気を医師へ説明しながら受診しています。
患者が病気を学び、自ら身を守ることは重要です。しかし、それを医療者側の認識不足や診療体制の不備を補うための前提にしてはなりません。
必要なのは、次の体制です。
- 都道府県ごとの診断・紹介体制
- 大学病院等へのHHTコーディネート医師の配置
- 肺・脳・肝臓等の標準的スクリーニング
- 救急・耳鼻咽喉科における鼻出血対応の標準化
- 多発性肺動静脈奇形に対する合理的な保険審査
- 患者会が継続的に参加する実効性あるPPI
- 患者向け資料を患者会と共同で作成する仕組み
オスラー病は、早期に気づき、必要な検査と治療につなげることで、重篤な合併症を予防できる可能性があります。
「知らなかった」「担当科ではない」という理由で患者を取り残さない医療体制を、国、研究班、学会、医療機関、患者会が共同で構築する必要があります。
特定非営利活動法人 日本オスラー病患者会
代表理事 村上 匡寛
公式サイト:https://www.hht.jpn.com/
お問い合わせ:info@hht.jpn.com
※本記事は疾患に関する一般的な情報と患者会の問題提起を示すものであり、個別の診断・治療を指示するものではありません。

